名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1275号 判決 1950年11月15日
被告人
金光一郎こと
金正烈
主文
本件控訴を棄却する
理由
弁護人志貴三示の控訴趣意第一点について。
原審公判調書によれば原審検察官がその冐頭陳述において被告人に前科のあることを明かにしたこと及前科に関する事実が犯罪事実でないことは所論の通りである。而して情状に関する事実も犯罪事実と同じく証明の対象であることは明かなところ我が刑事訴訟法は犯罪事実に関する審理と情状に関する審理とを段階的に区分していないのであるから検察官としては証拠とすることができず又は証拠として取調を請求する意思のない資料に基いて裁判所に事件について偏見又は予断を生ぜしめる虞のある事項でない限りその立証しようとする事項を一括してその冐頭陳述において明かならしめることは当然の措置でありその事項が被告人に有利であると不利であるとに拘らない。従つて原審検察官がその冐頭陳述において前科調書に基き被告人に前科の存する事実を明かならしめたことは何等違法な処置でなく論旨は独自の見解にたつものであり採用の限りでない。